講談社100周年記念企画 この1冊!:ヤンマガKC『バタアシ金魚』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

68冊目

ヤンマガKC『バタアシ金魚』

望月峯太郎

石坂秀之
文芸図書第一出版部 50代 男

花井薫は私だ!

書籍表紙

ヤンマガKC
『バタアシ金魚』(1)〜(6)
著者:望月峯太郎
発行年月日:1986/05/17〜1988/09/17

 青春は、好きな女のためにがむしゃらに頑張ること。(……らしい)花井薫。

 ショックだった。自分もこんな高校時代を生きればよかった。何やってたんだろう、オレ。偏差値50以下の無名都立高校時代のオレらは、カボチャかキュウリの出来損ないのような気持ちで、夏休みにはチャリに乗って、できたばかりの区立体育館のトレーニングジムに通ってムキムキの体を作ることしか考えてなかった。女っけはなし。シンナーの臭いのするカトウとマローンの香り漂うハシモトとベンチプレスに励んでいた。

『バタアシ金魚』がヤングマガジンで連載が始まったころは、もちろん会社員で群像編集部にいました。当時は一週7日のうち6日間運動ばかりしていたのを覚えています。日曜と火曜はバスケット、土曜は多摩川の河川敷でテニス、後はスポーツジム。結婚したばかりで目白台社宅にいて漫画ばかり読んでいました。

 主人公の花井薫くんからは、人生で一番大切だと思うことを教わりました。それは、冒頭で書いた、どんなにうざいと思われても、好きな女のためにはがむしゃらに頑張ること。(……らしい)。なんて平凡で美しい青春の響き。薫くんは大好きなソノコくんがちょっとでもほかの男と話をしようものなら、ソノコの顔面にパンチを食らわせて血だらけにすることだってあるんだから。ボヴァリー夫人は私だ、的に、当時の自分は、花井薫は私だ! とさえ思っていました。で、自分も当時の奥さんに、会社を辞めて二人で幸せになるためにオーストラリアに移住してパン屋を始めようと提案して、苦笑いをされていました。(結構マジだったのに)。

 その頃の自分は、いつかどこかで、のんびりと幸せな時間を過ごせる時が来る、と漠然と思っていました。人生はきっとそんなものだと。そして、銀行ローンを組んで目白台社宅を出て家を買い、だんだんバスケットの練習にも参加しなくなっていき、なんだか長い夢から覚めてみると、いま自分が生きているこの世界が始まってました。

 もし、もう一度青春に戻れるならば、今度は水泳部に入ります。

(2011.06.15)

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