講談社100周年記念企画 この1冊!:『少年H』(上)(下)

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

52冊目

『少年H』(上)(下)

妹尾河童

植田英文
総務局 61歳 男

面白くてためになった

書籍表紙

『『少年H』』(上)(下)
著者: 妹尾河童
発行年月日:1997/01/17

「この1冊!」は、書籍宣伝部に所属していた時に担当したこの本です。

『少年H』が書名。著者初めての小説。一体どんな内容なのか少し“不安”を感じながら宣伝活動をスタートしました。妹尾河童さんについても、当時は他社の週刊誌で風変わり且つ精密なイラスト入りの、有名人のトイレを覗くエッセイシリーズの著者という認識しかありませんでした。(ゴメンなさい)。数章ずつ編集部から見せてもらった原稿を読み始めると、面白いの何のって。

 編集部・販売部・宣伝部等の各担当と河童さんとの打ち合わせの会議の席で、河童さんは「サッカーの選手達のように、皆でチームワークよくこの本を世の中に出していこうよ」と宣言されました。また「僕のことを『先生』って呼んだら罰金1,000円だよ」とも。(実際罰金を払わせられそうになった人も確かいたっけ。)で、この文章の中でも「河童さん」と呼ばせていただいています。

 物語は戦時下(太平洋戦争)の大変な時代に神戸の須磨の近くに住んでいた、好奇心旺盛で、即実行型で逞しく、度を越した腕白少年(河童さんは本の中で「悪がき」と書いていますが)「H」の日常生活を活写したものです。暗くなりがちな戦時下の話を、少年の目を通してイキイキと描いています。

「H」は河童さんの改名前のイニシャルに由来します。改名に至る経緯や裁判所とのやりとり等も伺いましたがこれがまた面白い。詳しくは他の本に書かれていますのでその本を読んでみてください。考えてみれば自分もイニシャル「H」なので、この本への思いいれが強いのかもしれません。

「愛」「笑い」「勇気」「感動」の物語。宣伝惹句に使われた言葉ですがそのそれぞれの言葉に、意味がある「本」です。

 この本の目次ページには、

「おことわり   この本はそう総ルビに近いほど、かんじ漢字という漢字にルビをふりました。おとな大人の人には、わずら煩わしいでしょうが、かんべん勘弁してください。むかし昔の本には、こんなふう風にすべての漢字にルビがついていたおかげ蔭で、ぼくは大人の本を読むことができたし、漢字を覚えることもできました。  ぜひ少年少女にも読んでほしいという思いをこめて、昔のような本にしました。かんよう寛容な心でおゆる許しください。   ――妹尾河童」

 という言葉が掲載されています。多くの人々に読んで欲しいと思います。

 奥付の第一刷発行日は 1997年1月17日。阪神・淡路大震災から丸二年目、河童さんの神戸へのエールです。

(2011.04.15)

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