51冊目
講談社のディズニー名作絵話『王さまの剣』
講談社のディズニー名作絵話
『王さまの剣』
絵:ウォルト・ディズニー
文:鶴見正夫
発行年月日:1967/06/25
昨年11月、不惑の誕生日目前に初めて娘を授かりました。命名「のの子」。親ばかのそしりをものともせず申しますが、これがもう悶絶するほど可愛い、というかもはや美人。しかも物凄く賢い。生後3ヵ月にしてすでに、絵本を読み聞かせると目をらんらんと輝かせて夢中でページを見つめ、おとうさんの朗読に耳を傾けております。
そうなってくると、次は何を読み聞かせようかとおとうさんは目じりを下げながら本屋へ向かいます。絵本・児童書の棚を物色していますと、驚いたことに遥か昔幼児だった僕が読み親しんだたくさんの本が今も現役で並んでいました。すぐれた絵本・児童書は世代を超えて受け継がれていくわけです。人類の財産を見た思いがいたしました。
なかでも「講談社のディズニー名作絵話」シリーズを目にしたときには、およそ40年前の記憶の扉がいっぺんに開き、わくわくした物語の数々が鮮明に思い出されました。その中からこの場を借りて、『王さまの剣』を紹介いたしましょう。写真は今の装丁ではなく、僕が子供のころに読んだものを講談社の図書館からひっぱりだしてきました。
この物語は、こんなふうに始まります。
「みなしごの わーとは、だいどころの さらあらいです。いぎりすの ある おしろで、はたらいて いました。」
“わーと”はある日、森の奥で魔法使いの“まーりん”に出会い、いずれ“わーと”は石に刺さった剣を抜いてイギリスの王様になるのだと予言されます。そうです、この話はアーサー王伝説をもとにして描かれているのです。お城の台所で皿洗いに明け暮れていたみなしごの“わーと”が魔法使いに魔法を教わり、悪い魔女やいじわるなお城の若様をやっつけ、そしてついにはあのエクスキャリバーを引き抜いてイギリスの王として戴冠するまでを描いた、胸のすく物語です。
実を言えば、僕は原作にあたるディズニー映画「王さまの剣」を観たことがありません。おそらく、すばらしいアニメーション映画なのでしょう。でもたぶん、何回も何回も繰り返しこの絵本を読んで僕の頭の中にできあがった『王さまの剣』のほうがよりいっそうみずみずしく魔法がいきかい、美しい剣が石の台座から引き抜かれているはずです。すべてひらがなで書かれた、大変にやさしい語り口のこの絵本は、幼い子供の想像力を無限大に刺激してくれます。冒険の本質がぎゅっと詰まっています。
最近のの子の語彙には「ぶぶぶー」とか「ぐぎぎー」といった濁音言葉や「ぷっぷぷー」といった破裂音が加わってきました。寝返りの練習にも余念がなく、90度までは体を旋回させられます。そこから肩を押してやってうつぶせにしてやると、しゃきっと首をもたげ凛々しくスフィンクスのポーズをとります。しつこいですが、最高に可愛いです。そんなのの子に絵本を読んでやると、最近は体をよじって嬉しがり、「キャハー」と声を出して笑います。なにひとつ話なんかわかってないはずなのに大興奮。絵本を読むうえで、おとうさんおかあさんは演出家兼俳優なのです。次に読み聞かせるときにはどんな声音でどんな節回しでどんな抑揚で読んでやって、どこまでもだえさせてやろうか、おとうさんも興奮気味です。もう少しだけ大きくなったら、『王さまの剣』を読んでやります。絶対に悶絶させてみせます。
(2011.04.15)