講談社100周年記念企画 この1冊!:青い鳥文庫『クレヨン王国の十二か月』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

45冊目

青い鳥文庫『クレヨン王国の十二か月』

福永令三

丸岡愛子
文芸図書第三出版部 27歳 女

「日常」と「物語」を繋いでくれた本

書籍表紙

青い鳥文庫
『クレヨン王国の十二か月』
作:福永令三
絵:三木由記子
発行年月日:1980/11/10

 鳥が好きです。気になる鳴き声を聞いたら、姿を見るまでその場を動きたくないほどに。スズメ、ハトは一般的……とはいえ愛らしいですし、スズメより一回り小さくて、澄んだ鳴き声がしたらメジロの可能性が。すばしっこいシジュウカラかもしれません。飛ぶ姿が美しいオナガや白鷺を見ると、今日は運がいいなぁと嬉しくなります。高校生の頃、友人から「スズメやハト以外に東京にいる鳥って何?」と聞かれ、初めて、自分が他の人よりも鳥を好きだということに気が付きました。

 福永令三さんの「クレヨン王国」シリーズに出会わなければ、こんなにも鳥や自然を好きにならなかったと思います。最初に手に取ったのは、シリーズ第一作目『クレヨン王国の十二か月』でした。

 大みそかの夜、小学生のユカが目をさますと、12本のクレヨンたちが会議を開いていました。議題はクレヨン王国の太陽ともいうべき、ゴールデン王の家出。妻のシルバー王妃が12の悪いくせを改めるまで、お城には戻らないと断言したのです。王妃のくせは、ちらかしぐせ、おねぼう、うそつき、じまんや……など、どのくせも私自身覚えがあるものばかりで親近感を覚えました。

 シルバー王妃と共に旅をすることになったユカ。2人は「12か月の町」を旅します。まず訪れたのは1月の「白の町」――スピッツが門番をし、オオハクチョウの女主人が宿屋を経営する何から何まで真っ白な町でした。彼女たちは豪華なケーキの景品につられて、雪だるまコンテストに出場します。最後まで絶対に溶けない雪だるまを作るため、王妃は雪に塩を混ぜるという作戦で勝利を目指すのですが……ここは“ちらかしぐせ”の町。店主が塩と間違えてあるモノを渡してしまったせいで、思わぬ事態に……!

 どの町でも、ありとあらゆる動物や虫、鳥、植物が、にぎやかなキャラクターとなって登場します。穏やかなナメクジウオ、血に飢えたテングザメ、歌姫のウグイス、青い袈裟を着たブッポウソウ……まだまだ本当にたくさん! 知らない生きものばかりだった小学生の私は、物語を通して彼らと出会い、時に図鑑を広げて、いつか自分の目で見てみたいと思ったものです。その出会いが、今も興味として残っているのでしょう。

「大人が大きな子どもであるように、子どもは小さな大人である」冒頭にある福永令三さんの言葉です。未知の生きものや景色に満ちた「クレヨン王国」シリーズは、現実の生活をより愛おしく、ワクワクできるものにしてくれました。「物語の力」が読み手の日常を動かすことができるということを教えてくれた、大切な1冊です。

(2011.04.01)

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