講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社ノベルス『すべてがFになる』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

41冊目

講談社ノベルス『すべてがFになる』

森博嗣

戸田涼平
幼児図書出版部 26歳 男

買えばいいのに

書籍表紙

講談社ノベルス
『すべてがFになる』
著者:森博嗣
発行年月日:1996/04/05

 森博嗣さんの作品が好きです。大学1年生のとき、なにか面白い本はないかなあと、地元の図書館でうろうろしていて、たまたまデビュー作の『すべてがFになる』を手に取ったのがきっかけでした。

 パラパラと眺めてみて、「孤島」「殺人」「天才」「大学生」などのキーワードと、読み応えがありつつも、厚すぎないちょうど良いボリュームに魅かれたわけです。ところが、実際に読み始めてみると、コンピュータの専門用語がところどころにでてきて、「?」と思うことが多く、最初はしっくりきませんでした。

 もともと理科や数学が本当に苦手で、大学受験では理科が試験科目に入っていないところをわざわざ探し、理科のように逃げきれなかった数学については、100点満点中20点くらいしかとれなかった理数オンチの私。ところが、そんな私が理系ミステリとも言われるこの作品を読み進めていくうちに、瞬く間に夢中になったのです。

 今思えば、嫌いな食べものも料理法次第では意外においしく食べられるように、苦手なテーマが含まれた本でも、作品自体の圧倒的な面白さがあれば、そんな些細なことは吹き飛ぶのだ! ということでしょうか。シンプルで精緻な文体、独特すぎるキャラクター造形、文系の私には全く思いつかないようなトリックと予想もつかない展開、ラストまで読んだ後で、思わず最初から読み直したくなるような伏線の回収方法…。あげればきりがありませんが、この本ほどあっという間に読み終えたことは、今までの人生で初めてだったと思います。

 森さんの作品の面白さにのめりこんだ私は、どんどん続きが読みたくなり、毎日のように図書館に通いました(買う、という発想はなかったらしい)。自慢ではないですが(というか自慢なんですけど)、あまりにも好きすぎて、森さんの『四季 夏』という作品が文庫化される際に行われた、解説を読者から募集、というキャンペーンに喜び勇んで応募し、採用されたこともありました。

 まあ、そんな話は置いておいて、いま、それぐらい好きだった作品を出していた出版社で働いていてこの文章を書いている、と思うと、いまだに不思議な気がしてなりません。夢か、と思い、時々頬をつねります(もちろん痛いだけです)。夢ではないようなので、声を大にして言います。理科が苦手な人も、数学も苦手な人も、ミステリに興味のない人も、だまされたと思って、ぜひご一読のほどを(できればご購入を)!

(2011.03.15)

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