講談社100周年記念企画 この1冊!:mimiKC『ハーフ・シングル』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

39冊目

mimi KC『ハーフ・シングル』

板本こうこ

原田美和子
Grazia編集部 40代 女

編集者に憧れていた頃、夢中で読んだ1冊です

書籍表紙

mimi KC
『ハーフ・シングル』(1)(2)
著者:板本こうこ
発行年月日:1987/08/10〜1987/12/10

 小さい頃から、KC(講談社コミックス)が大好きでした。

 当時のKCは、カバーを取るとオレンジの地色に“KC”と白抜きされた小さな文字が羅列されていて、そんな無愛想にも思えるデザインにすら、強い愛着を感じておりました。

『はいからさんが通る』も『あしたのジョー』も『アイドルを探せ!』も……夢中だった作品は数あれど、このあたりならば、きっと私の他にも語る人がいるはず。私にしか書けないものを――と思ったら、やはりこれしかなかったんです。
 

 何度読んだか、わかりません。どれだけ励まされたかわかりません。

 家の中の、何処に行ったかわからないので社内の図書館で借りようとしたら、今や図書館に置いてもらえず(ショック!)倉庫に送られてしまっていた、恐らくほぼ誰も知らない少女マンガ。それが、『ハーフ・シングル』です。

 主人公の糸杉絵麻ちゃん(大学4年生)が、編集者になりたくて、なりたくて、何社も出版社に落ちては、実家の小樽に帰るべきか悩み、同じサークルの理郎(みちろう)君との恋もままならず右往左往する、大学時代が第1巻。

 2巻は、念願叶って憧れの出版社に入った絵麻ちゃんの“新米女性誌編集者編”です。夢と現実のギャップにプロの厳しさを味わい、不規則な生活で理郎くんとすれ違っていき――絵麻ちゃんの編集者人生やいかに? というストーリー。

 発売時、ちょうど私も大学4年生で、絵麻ちゃんが編集者になりたい気持ちと、私の編集者志望熱が強烈にリンクして、他人事とは思えなかったのです。
 だからこそ就活に苦しんでる1巻よりも、彼女が新米編集者として働きはじめた2巻のほうが大好きで、就職活動しながら(実は入社してからも)、くじけそうになると何度も読んでいました。

 新人編集者の絵麻ちゃんが体験する色んなことが、とにかく私には眩しくて仕方なかったんです。

 プラン会議や、読者モデルのヘアカタ撮影。日曜の午前中に作家先生のご自宅に原稿を取りに行ったり。でも、原稿がなかなか上がらず、夜中まで延々待たされて、デートの約束をしてた理郎君をすっぽかすハメになったり(なにしろ携帯のない時代ですから)。

 先輩と飲み会に行って、さぁ、もう1軒! と連れて行かれたのが、深夜のデザイン事務所で、こんな深夜から打ち合わせ? と驚いたり。

 どれも彼女にとっては大変な出来事なんですが、その大変な1つ1つすら、いいなあ〜いいなあ〜と憧れまくり、ついには絵麻ちゃんの着てる服に似たものまで買ってしまう始末(イメトレは大事です)。
 

 私にとっての「心のマンガ」を、今回、この企画のためにウン十年ぶりに読み返してみました。

 もはや長い年月、女性誌編集者をやっている私の目から見ると、
 こ、これはないでしょう……!? とか
 私はこの場面に感動したのか!(驚愕)とか
 古い日記を見るような、恥ずかしさで一杯になってしまいました。

 でも、未だに深くうなずける、リアルな部分もちゃんとあるんです。

 なにより、どんな目に遭っても絵麻ちゃんが「やっぱり編集の仕事が好き!」っていう想いは、全編通してしっかり伝わってくるんですよ。
 

 これをバイブルのように読んでいたのは、なりたいけれど、まさか自分が編集者になれるなんて思ってもいなかった20代の私。

 おかげさまで、今こうして女性誌を作っていられるなんて、やっぱり幸せ者だと思わずにいられません。

 私の中で絵麻ちゃんは、心の“同期”のようなもの。
 今も絵麻ちゃんは、どこかでばりばり編集者してるかな? どんな担当してるのかな。
 絵麻ちゃん、私も毎日頑張ってるよ! と、届くあてもないエールを、そっと送りたくなります。

(2011.03.01)

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