講談社100周年記念企画 この1冊!:『限りなく透明に近いブルー』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

27冊目

『限りなく透明に近いブルー』

村上龍

砂岳いづみ
システム部 40代 女

いまは何色?

書籍表紙

『限りなく透明に近いブルー』
著者:村上龍
発行年月日:1976/07/14

 感動した本、おすすめしたい本は数々あれど、「自分だけのこの1冊」と言えばこの本です。

 30年近く前の話。鹿児島の片田舎で高校卒業を間近に控えていた2月のある日、化粧品会社が主催するメイク講習会の案内が届きました。(そう、その頃、メイクは高校を卒業してからするものだった!)メイクには全く興味がなかったけれど、私は迷わず行くことにしました。講習会は2部構成で第1部として村上龍氏の講演が組まれていたからです。

『限りなく透明に近いブルー』でデビューして2年ちょっと。村上氏は当時20代で、芥川賞受賞後、話題の人でした。本が好き、そして絵を描くのも大好き(さらにミーハー)だった私は、武蔵美(ムサビ)中退で同じ九州出身というこの若い作家にすごく興味がありました。本はまだ読んでいなかったので、講演を聞く前に読んでおこうと、早速近くの書店に買いに行きました。が、田舎の小さな書店さんには在庫がなく、出版社から取り寄せてもらいました。いま思えば、その出版社こそ講談社だったんですね。

 講習会当日、村上氏の話が終わると、私は一人、メイク講習は受けずに会場を抜け出して建物の裏口あたりに向かいました。本にサインが欲しかったんです。南国とは言え、風が強く寒い日だったのを覚えています。会えるかどうか何の保証もないまま、しばらくぽつんと立って待っていると、確か毛皮のコートをおしゃれに着た村上氏が一人で出てきました。本を差し出してサインをお願いすると快く応じて下さり、「頑張って下さいね」と声をかけてくれました。生まれて初めて会った作家、初めてもらったサインです。嬉しかったの何のって。その時からこの本は宝物になりました。

 基地の町・福生に暮らす若者たちのドラッグとSEX…退廃的なこの小説は、かなりオトナの香りがしましたが、洗練されたおしゃれな小説だと思いました。この本に出会ってすぐに上京。親元を離れる時に読んだこともあって、その後、自分を確認するための特別な1冊になりました。「本」であり、「あの時の私」でもあります。一人で村上氏を待っていた18歳の自分は、まだ透明に近かったはずだけど、いまは何色? 自分はいまどこに立っている?

 2010年秋、村上氏は電子書籍出版のための新会社を設立。『限りなく透明に近いブルー』の電子書籍版には、当時の手書き原稿の画像が収録されているのだとか。村上氏の試みはいつだって新しい。

(2011.01.14)

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