講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社X文庫『SFX映画の世界 完全版』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

25冊目

講談社X文庫『SFX映画の世界 完全版』

中子真治

服部 徹
映像製作部 45歳 男

文庫本から浴びた「映像の凄み」

書籍表紙

講談社X文庫
『SFX映画の世界 完全版』1〜4
著者:中子真治
発行年月日:1984/10/08〜1985/07/29

 一体どういうトリックなのか? 誰が創っているのか!? この本は当時の私の疑問の全てを解き明かしてくれた。全4巻にわたりSFXを16のカテゴリーに分けて、当時の読者からすれば貴重な資料と初公開のスクープ写真、最新鋭の技術解説を満載し、丁寧かつマニアックな説明を施している本だ。『SFX映画の世界』という、やや大判の1巻ものが先に刊行され、数年後に文庫で完全版が刊行されたと記憶している。

 いまでは、ブルーレイディスクの映像特典には本編の数倍に達するメイキングや秘蔵映像が収録されている。けれど、当時の自分にはソフト(レーザーディスク)を買うカネもなく、またそうした映像資料そのものが、あまり公開されていなかった。

 とにかく懇切丁寧な本だ。索引だけをみても、〔SFX用語索引〕〔映画題名索引〕〔人名索引〕の3種が4巻全部に完備されている。後年、本職の編集者になり、索引のある本をいくつか作ったが、これほど「深い」索引にはできなかった。当時は「特撮」と呼ばれていた映像技術を表現するコトバを、「SFX」へとヴァージョン・アップさせたのは本書の功績だ(当時、著者はカリスマ映画評論家で、その後『学校の怪談』ではSFXプロデューサーまで務めた)。

 本好きだった男の子(私)は、中学生、高校生となるに従って、アニメや映画への関心が加わっていった。大学入学のために上京(というか帰郷)したハズが予備校に通うハメになり、「第1回東京国際映画祭とファンタスティック映画祭が開催されるから」、という親からすれば嘆かわしい狙いで渋谷にある予備校を選んだ。そんなタイミングで出会ってしまった本書は、自分にとっては本当にバイブルだった。

 ファンタスティック映画祭に通い、本書で予習・復習をする至福の日々。スタン・ウィンストン、フィル・ティペット、デニス・ミューレン、ジョー・ジョンストン……。関心のない人には何の意味のないクリエーターたちの偉業と名前が、この罪作りな本のおかげで、英単語や歴史年号の替わりに私の脳ミソに刻まれていった(案の定、予備校は2年通うことになった)。

 本書が刊行された1984年は、日本のアニメーション映画にとって特異年だった。冬に『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』(押井守監督)、春に『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督)、夏に『超時空要塞マクロス』(河森正治監督)が公開された。どの作品も、いまだに監督が第一線で活躍する画期的な作品ばかりだった。

 実は、講談社も同年に『レンズマン』(広川和之監督)を公開している。この映画は残念ながら前出の歴史的傑作群に埋もれてしまったけれど、私にとって講談社は、「たくさんの立派な書籍や雑誌と、なぜかマニアックなSFXの本やアニメ映画まで創る不思議な会社」として刷り込まれていた……。

 時は流れ……。本書には、『アバター』で3D革命を起こした、あのジェームズ・キャメロンの名前がない。彼の出世作『ターミネーター』が日本で公開されたのは1985年5月なので、キャメロンは本書の歴史に姿を現していないのだ。そんな風に、最先端の映像技法を網羅していた『SFX映画の世界』の中身は、いまや丸ごと「史料」「クラシック」となってしまった。けれど、ページをめくると、どんな傑作映画にも怪作映画にも、観客の想像を超えた創り手の技術と熱意が注がれているという事実は、相変わらずこの濃密な本から伝わってくる。

 奇しくも、現在の部署で映画製作に携わることになった。特撮、SFX、そしていまではVFXと呼ばれている映像技術を駆使した作品が、一体どういう形で観客の前に出現するのか? どきどきしながらプロジェクトを進め始めたところだ。困ったときには、先人たちの奮闘がマニアックに記された本書をめくって、元気をもらうことになると思う。

(2011.01.14)

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