講談社100周年記念企画 この1冊!:青い鳥文庫『そして五人がいなくなる ―名探偵夢水清志郎事件ノート―』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

17冊目

青い鳥文庫『そして五人がいなくなる ―名探偵夢水清志郎事件ノート―』

作:はやみねかおる 絵:村田四郎

鍜治佑介
文芸図書第二出版部 26歳 男

ほんの、隠しごと。

書籍表紙

青い鳥文庫
『そして五人がいなくなる―名探偵夢水清志郎事件ノート―』
作:はやみねかおる
絵:村田四郎
発行年月日:1994/02/15

 はやみねかおるさんの『そして五人がいなくなる』(講談社の青い鳥文庫から刊行されたミステリです)。この1冊で、ぼくは本が好きになりました。

 いま手元にある『そして五人がいなくなる』は、1996年7月3日に発行された、第8刷です。当時小学生だったぼくは、はじめてもらった2枚の図書券を、この1冊と交換しました。

 物語の冒頭で、引越しを終えたばかりの名探偵・夢水清志郎の家に、おとなりの女の子が3日つづけて遊びにきます。その3日目のこと、24ページの最後の行で、名探偵は言いました。

「きみ※※※、※※※※※※※※※※※だろ」

 ……え?

 ミステリーはおろか、小説をほとんど読んだことのない小学生にとって、このひとことは革命でした。本を読んで、時が止まるほど驚かされるなんて。

 そして一度ページを閉じ、表紙を観察しました。次にひっくりかえしてあらすじを読みました。
 そんなこと書いてあったっけ? このときに名探偵が言ったひとこと(この文章の最後に書きます)を言わずに、本はつくれないはず。

──なのに、表紙の絵にも、あらすじにもタイトルにも、そしてあとがきにも、手がかりになるようなことは、なにも書かれていませんでした。

 300ページ弱あるこの1冊で、冒頭の24ページに書かれた名探偵のことばは、メインの事件とは何の関係もありません。最初に夢水清志郎の名探偵っぷりを示すための、小さな小さなミステリです。しかしこの本は、その小さな驚きすら、読む人から奪わないようにつくられていたのです

 瞬間、うわっと胸が詰まり、本ってすごい!! と思いました。この1冊をつくった人たちの想いに気づけて、得意になりました。

 ミステリを好きになり、小説を好きになり、本が好きになりました。

 しかし、魅力的な事実を隠して本をつくることがどれだけタイヘンか、わかっていただくには、名探偵の謎解きをお伝えしなければいけません。ここから先は、未読の方、ネタバレが嫌な方は読まずにおいてくださいね。

 

実は、
このとき、
※※※は……※※※※※※※!!

 

 ……すみません。やはり、書けませんでした……。
 もし、少しでも気になっていただけたなら、お近くの書店さんで、ぜひ……!

 いま、青い鳥文庫では、『そして五人がいなくなる』の試し読みページがあるようです。

 このページをさきほど見てみたところ、なんと21ページで唐突に試し読みが終わっていました。
 この本は初版が1994年です。それから16年経った2010年の現在も、24ページで名探偵・夢水清志郎が言ったことばは、この本を実際に手に持って、12回ページをめくった人にしか、読めないんですね。

 以上がぼくの“この1冊”でした。

 ぜひみなさんも、ご自身の“この1冊”を、ご友人に紹介してください。

 もちろんそのときに、あなたの本の隠しごとは、秘密にしておいてくださいね。

(2010.12.15)

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