講談社100周年記念企画 この1冊!:『蒼穹の昴』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

16冊目

『蒼穹の昴』

浅田次郎

山根隆
取締役 50代 男

この本に出会って私の読書人生(?)が変わった

書籍表紙

『蒼穹の昴』(上)(下)
著者:浅田次郎
発行年月日:1996/04/18

 かれこれ15年くらい前、総務の先輩で、当時社屋建設準備室担当役員だった小池武久さんに、「おい山根、ともかく黙ってこの本を読んでみろ。すごいぞこれは」と言われたのが、浅田次郎さんの「蒼穹の昴」です。

 それまで私は、翻訳物のミステリーや探偵ものばかり読んでいましたので、あまり気乗りがしなかったのですが、「騙されたと思って」読み始めたところ、ぐんぐん引き込まれ、夜の更けるのも忘れて、一気に上下巻を読み切ってしまいました。

 有名な小説ですし、多くの方が読まれていますので、あらすじのようなものは省きます。この作品は近世中国の史実と実在の人物を下敷きに、それらを独自の解釈とフィクションで包み込み、壮大な世界を描き出しています。そのなかでなにがすごいといって、大きな運命の糸に操られる人間の、悲しみ、喜び、苦悩、邪悪さ、崇高さ、これらの表現が実に見事である点です。とりわけ泣ける場面は、浅田さんの真骨頂ではないでしょうか。思いっきり泣けます。

 実は10月の中旬にニューヨークに出張してきました。この原稿依頼がきていましたので、今回は講談社文庫(4冊)をもう一度読み返しました。行きの機中で2冊、帰りの機中で2冊のつもりが、帰りの分は滞在中のホテルで読んでしまいました。恥ずかしながら、やはり何回か泣いてしまいました。文字・活字にこれほどまで人の心は揺さぶられるものでしょうか。揺さぶられるのですね。

 もちろんこれに続く『珍妃の井戸』『中原の虹』『マンチュリアン・リポート』もすべて読んだのですが、その後は、今まで読んでこなかった別の作家の中国もの(たとえば宮城谷さん)から、日本の時代小説を多く読むようになりました。

 「読書人生」、こんな言葉はありませんが、あるとすれば、間違いなく私の読書人生を変えた一冊です。もし読んでない方がおられるなら、「黙ってこの本を読んでみて」ください。

(2010.12.01)

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