講談社100周年記念企画 この1冊!:『art japanesque(アート・ジャパネスク)』第10巻「茶と花と能――サロンの風流と芸能」

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

15冊目

『art japanesque(アート・ジャパネスク)』第10巻「茶と花と能――サロンの風流と芸能」

熊倉功夫

青山遊
学術図書第一出版部 33歳 男

横溢する「デザイン」にヤラれまくったころ

書籍表紙

『art japanesque(アート・ジャパネスク)』第10巻
「茶と花と能――サロンの風流と芸能」
編・著者代表:熊倉功夫
発行年月日:1982/09/30

 中学生ぐらいのころ、家の書棚に並べられた『art japanesque』(全18巻)に出会った。美術史なんてものに別段の関心があったわけでもないのだけれど、全巻にまたがってシリーズ名が薄く印刷された背表紙に、各巻ごとに掲げられた妙にこってりとしたタイトル――松岡正剛節の――に惹きつけられて、何気なく函から取り出してページを開いてみたのだ。たしかそのとき最初に開いたのは第10巻『茶と花と能』。能面や茶器、立花、あるいは茶人(当時の千宗室で、これまたこってりとした迫力のある人だ)たちを切り取った美麗な写真(撮影は篠山紀信や熊切圭介、そして講談社の誇る木村元明)にまず目を奪われたが、美的感受性にいまひとつ乏しい僕は、もっと意味性の高い物件にヤラれてしまった。たとえば、利休による「妙喜庵待庵」にはじまる草庵茶室の構造を線画でおこしたものを並べた「正面と非正面」という企画や、同様に、小袖の文様や茶碗の意匠を、あえてモノクロの線画にして比較した企画など。そのほかの用語集や読み物ページも、随所にデザイン的意図があふれていて、そういう仕掛けにすっかり惹きつけられてしまったのだ。

 悲しいかな、しょせんはゲーム世代の凡庸な中学生。それをきっかけにして日本美術の世界にどっぷり浸かって見識と教養を深めていきました、といういい話にはならなかった。ときどきつまみ食いをするように、あの函入りの大判書を取り出したことはあったけれど、記憶に残っているのは、最初の出会いの印象ばかりだ。でも、もしかしたら、いまこういう現場に身を置いて、すばらしい著者たちと刺激的な仕事ができているのは、あのときの出会いが、かすかな縁の起こりになっているのかもしれない。……ちょっときれいな話にしすぎている気もするけれど・笑

『art japanesque』を講談社が刊行しはじめたのが30年弱まえのこと。あれから、本を取り巻く状況は変わっているとも言えるし、変わっていないとも言えるだろう。さて、僕たちはいま、そのへんのボサっとした中学生に、驚きと出会いをもたらすような本を作れているだろうか。あまり胸をはることができないのがすこし悲しいが、まだまだできることは、無数に目の前に広がっていると信じている。

(2010.12.01)

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