12冊目
『だから、あなたも生きぬいて』
『だから、あなたも生きぬいて』
著者:大平光代
発行年月日:2000/02/22
奥付をみると2000年2月22日とあるから今から10年前のことだ。当時書籍販売局に所属していた私は発売前のある日、日販のH氏と八重洲近くの店で食事を終え、東京駅から帰途についた。編集部から預かった鞄の中のゲラを取り出し電車の中で読み始めた。次第に引き込まれ帰宅後も一気に読んだ。読み終えたのは午前3時過ぎだった。気付くとワイシャツにネクタイ姿のままだった。その内容に衝撃を受け、なかなか寝つかれず翌朝早く表に出て空を見上げるとまだ月が残っていた。
「よし、この本をベストセラーにするぞ」と月に誓った。なぜだかわからないが「70万部」までいけるのではないかと思った。その日帰宅すると家内がゲラを読んで涙していた。
数日後上京した盛岡の書店店長I氏に「読んで欲しい」とゲラをそっと渡した。翌日I氏と再度会った。彼はホテルで読んでくれていた。朝4時までかかったことを告げられた。前日は夜遅くまで飲んだこともあり彼の眼は赤かった。恐る恐る「どれくらい売れると思う?」と尋ねた。彼は指2本を私の顔の前に突き出した。「え?20万部しか売れないの?」と私は聞き返した。彼はしばらく黙っていたが「いや、200万部だよ」と言った。
発売前に彼は地元のラジオ番組で何度か『だから、あなたも生きぬいて』を紹介してくれたという。発売日、その本屋さんには凍てつくような寒さにもかかわらず40名以上のお客さんが開店前に並んでいたとI氏から電話がきた。その年の前半にミリオンを達成し、結果的に200万部を超えた。彼の眼は確かだった。
発売後著者の大平光代氏にお会いした時、彼女の華奢な身体に驚いた。いったいどこからあのエネルギーが出てくるのだろうと考えてしまうほどだった。彼女が中学校でいじめにあい、追い詰められ、割腹して自殺未遂をはかる。その後は非行を繰り返し、ついに極道の妻になる。背中には刺青。しかし養父の大平浩三郎氏に出会い、中卒のハンディを跳ね返し、司法試験に合格し弁護士になる。そして非行に走った少年少女たちを救い出す活動を続けている。そうした半生がこの本には赤裸々につづられている。書名の『だから、あなたも生きぬいて』はそんな大平さんの悲痛な叫びだ。
(2010.11.15)