9冊目
少年少女世界文学館『クオレ』
少年少女世界文学館『クオレ』
著者: エドモンド・デ・アミーチス
翻訳者: 矢崎源九郎
発行年月日:1988/03/21
最近の書籍やコミック、雑誌でも好きなものは挙げれば山ほどありますが、生まれて初めて本を読みながら大泣きしたこの本が私にとっての“この1冊”かな、と。
小学校の頃、親戚の家にある伯父の書斎で、壁一面にぎっしり並んでいる本を手にとってぱらぱら眺めるのが楽しみでした。伯父は歴史の教師をしており、10歳くらいの年齢だった私にとっては難しい専門書がほとんどでしたが、たまたまそこにぽつんと入っていた子供向けの本が『クオレ』でした。
本の内容は、舞台となっているイタリアの小学校に通う少年が、学校生活の中で1年間の間にあった出来事や見たり聞いたりしたいくつかのエピソードを中心にまとめたものです。
例えば老いて思うように仕事が進まなくなった父を思いやり、夜中にこっそり内職を手伝う少年の話「フィレンツェの少年筆耕」は、今となってはどうしてそこまで涙が出たのか不思議なくらい、親思いの少年に感情移入した記憶があります。
他にも友情や家族への思いやりに満ちたエピソードが次から次へと出てきて、本に夢中になるあまり帰宅する時間が過ぎても気がつかず、親に引きずられて帰ったのを覚えています。
余談ですが、“毎月のお話”という章で「アペニン山脈からアンデス山脈まで」という話が出てきます。私は知らなかったのですが、皆様ご存知の「母をたずねて三千里」という名作はこの話が元になっているのだとか。
今思えば、この本を読んだ事でいつか自分も少年少女に感動を与えたいという気持ちが芽生え、出版社を目指すきっかけになったといっても過言ではありません。(ただ、どこの出版社から刊行しているかは案外覚えていないもので、入社後数年経ってから講談社少年少女世界文学館シリーズの中の1冊だったことに気づいたのですが…)
20年ぶりに軽く読み返してみて、あの頃は純粋な子供だったなぁと日頃のやさぐれがちな自分を反省し、後輩にちょっと優しくしてあげようという気持ちになりました。(いや、今でもあの頃とそんなに変わっていないはず!)
友情、愛、正義、思いやりとは何かが心に伝わる名作です。
(2010.11.15)