6冊目
『一瞬の風になれ』
『一瞬の風になれ』
著者:佐藤多佳子
発行年月日:
[第一部] 2006/08/25
[第二部] 2006/09/21
[第三部] 2006/10/24
販売促進の仕事に就いていた6年、書店の皆さんにすすめ、すすめられしながら本の話をするのが最大の楽しみでした。その中で出会った著者が佐藤多佳子さん。たちまち佐藤さんの世界観の虜になった私は、『神様がくれた指』に始まり『黄色い目の魚』までほとんどの作品を読み通していました。そして、ある日、見つけたのです。わが講談社の新刊予定表に佐藤多佳子の名を。
『一瞬の風になれ 第一部』のゲラを「一晩で返却しますので貸してください」と販売部長にお願いして、本当に一晩で読み終えたとき、この本は「売れる! 売らねば!」と固く心に誓いました。全国の書店の文芸担当者十数名に、ゲラのコピーに手紙を添えて送り、あきれるほど情熱を傾けて促進したことがまるで昨日のことのようです。読んでいただいた方々からは、この本、この著者に出会えて本当に良かったという長文のメールが多数届きました。小さなきっかけが大きな輪になっていったのです。そして発売日には、多くの書店に手書きの紹介POPが立っていました。続く第二部、第三部のことを多くの書店の皆さん(中には他の出版社営業マンも)と共に想像し、語りながら待ち焦がれた時間がとても素敵でかけがえのない時間だったことを思い出します。
そして『一瞬の風になれ』は、シリーズで100万部を超え多くの読者に支持されました。2007年の本屋大賞にも選ばれ、書店の皆さんと疾走した一冊には素晴らしいゴールが待っていました。
本の紹介が遅くなりました。『一瞬の風になれ』は、春野台高校陸上部で、ヨンケイ(マイルリレー)を軸に、主人公の新二と連の高校三年間の成長を綴っていく物語です。走る<天才>の連。その<天才>が身近にいることで焦燥感や挫折感を感じながらも努力で道を切り開いていく新二。彼は言います「速く走りたい、もっと」と。成長していく主人公の想いがすべて表されているこの一言が大好きです。青春時代を遠く越えた今、この言葉に初心を思い出させられました。登場人物のすべてが抱える、世の中ままならないことや、大きな喜び。さまざまな人間関係の中で描かれる青春時代の喜び、挫折、涙、プレッシャー……そのどれもがまぶしく思える、そんな一冊です。
(2010.11.1)