講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社文庫『ま・く・ら』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

5冊目

講談社文庫『ま・く・ら』

柳家小三治

鈴木淳夫
広報室 50代 男

「ま・く・ら」で安眠

書籍表紙

講談社文庫
『ま・く・ら』
著者:柳家小三治
発行年月日:1998/06/15

 俳句・バイク・オーディオ・スキー・カメラ・ダイビング・ゴルフ・草野球・旅…。この他にもあるかもしれない。多趣味の人である。またこだわりの人でもある。落語も趣味だなんかとも言ってのけるぐらいの人である。柳家小三治師である。若い頃から5代目小さんの後継者と目されていたが、色んな事情があるのだろう6代目小さんは襲名しなかった。でもいつのまにか落語協会の会長になっちまっている。人望の人でもある。

 芸風は柳家流滑稽噺を主なレパートリーとするが、面白くもなんともなさそうな仏頂面をして面白いことをいうので受けるのである。えらの張った独特の風貌もこの芸風に合っていると思う。別名「枕の小三治」の異名があり、噺の本編にはいる前のイントロが抜群に面白い(噺の頭にするから枕である)。本書に掲載されている「ニューヨークひとりある記」「玉子かけ御飯」などは全部が枕という場合がある。この場合は随談ともいうのだろうか、先代の林家正蔵師がよく四方山話風に高座で掛けていたなあ。

 一般的に噺の枕というと、古来から語り継がれてきた本編に関係した定番的なものを振ることが多いのだが、小三治師は自分の趣味やこだわりの強さとかが作用しているのであろうかプライベートな話題が圧倒的に多い。このことも聴衆をぐっと引き付ける要因のひとつになっている。小三治師の師匠である5代目柳家こさん(なんと人間国宝である)師の枕はオーソドックスな古典的なものが多かったが、聴き取りにくいボソボソとした小さな声で話し始め、聴衆が聞き漏らすまいと固唾をのんで集中しているうちにいつの間にか本題に入っていたなんてパターンが多かったように記憶している。

 さて「ま・く・ら」である。落語本題の速記本というのはこれまであまた出版されているが、枕だけを集成しようとした編集氏の企画力には敬服する。小三治師の大ファンだったんだろうなあ。私も学生時代の経験で(なんと落語研究会だったのです)ついつい懐かしくて本書を手にとってしまいました。ご興味をもたれた向きには、肩肘張らずに読めます。

 小三治師の生き方、ものの考え方を通して充実した年のとりかたを見つけられるかもしれません。

(2010.11.1)

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